五月みどりさん

 艶やかで色褪せない初々しさが魅力の五月みどりさん。昭和38年のNHK紅白歌合戦で、歴代瞬間最高視聴率85・3%を叩き出した伝説的な記録の持ち主だ。東映映画『カマキリ夫人の告白』や日活作品などで衝撃と話題を与え、「熟女ブーム」の先駆者の彼女だが、「伊東家の食卓」などバラエティ番組でお馴染みとなり、今や主婦層にも人気を集めている。今年で芸能生活60周年。道のりを振り返えって頂き、等身大の彼女をお届けするインタビューだ。
他人(ひと)に喜んでいただくことこそ、
私のエネルギーの源です
Profile 五月みどり(さつきみどり)1939年東京都江戸川区出身
 1958年「お座敷ロック」でレコードデビュー。「おひまなら来てね!」「一週間に十日来い」などで大ヒットを連発し、スター歌手となる。NHK大河ドラマをはじめ、2017年4~9月に放送された好評のテレビ朝日系ドラマ「やすらぎの郷」へ出演するなど、現在も第一線で活躍中。歌手・女優・画家(二科展入選)・着物デザイナーなど、アーティストとしてもマルチな才能を発揮し続けている。
――娘に夢を託した父親の願い
実家は下町の精肉店。父親は大の芸事好きの厳しい人で、「学業よりもまず芸」という少女時代を過ごしたという。学校に行く前の芝居や歌の稽古が日課で、台詞を覚えないと学校にも行かせてもらえなかったほど。商売人の父は、自分の叶えられなかった夢を彼女に託したのだった。
 「終戦後間もまく、父は廃材を集めて仲間と芝居小屋を作り、そこを舞台に芸の披露をする様な人。私は物心付いた頃には芸が身近になっていて、お芝居に出ていました。お祭りともなるとあちこちの櫓で、大人の顔負けの歌を歌って…、名前は売れてなくても目立っていましたね。
 15歳の頃からは舞台で歌っていましたが、レコード歌手としてデビューするのは並大抵ではなかったです。数々のオーディションにノミネートされるものの、最終結果は決まって2位。プロ歌手になれるのが非常に狭き門の時代、父の夢を叶えて歌手デビューが出来たのは19歳の頃でした。芸事を一番に考える父でしたが、デビュー以来仕事には一切口出しはしませんでしたね。但し父の妹は恋愛が原因で芸事に大成出来なかった事もあり、私の恋愛にはとてもうるさかったです。若い頃から恋愛経験はほとんど無く芸一筋でしたから、逆に結婚にとても憧れていました。だから3回も結婚してしまったんです(笑)」
――シングルカットされていない?「おひまなら~来てよね~♪」
「歌謡曲が全盛になり始めた頃、所属のコロムビアレコードでは、日本調で旋風を…という思いがあり、私に期待があったようですが、デビュー曲は全く売れませんでしたね。デビュー4年目の頃、まだ無名だった私が事務所の廊下でお会いした遠藤先生に、土下座さながらにお願いし頂いた曲が『おひまなら来てね』なんです。遠藤先生が車窓からフランス映画のタイトル『今晩おひま』という看板を目にし、あの曲が閃いたと言います。この曲はB面にもかかわらず大阪から火がつき大ヒット。実感もないままにスターになっていた感じでしたね」
 その後36歳で東映映画に主演、40歳を過ぎてからの日活映画作品への主演でも話題をさらった。
「『熟女ブーム』の先駆けなんて言われていますが、私にとってはこれも芸の一つ。父もそう思っていたらしく、私のヌードポスターを平気で部屋に飾っていましたよ」
――スーパーマルチな才能を発揮
 品良いお色気がにじみ出ている五月みどりさんだが、「伊東家の食卓」で見せる可愛らしいお母さんのイメージも強く、女性からの共感も自然に得られてしまう不思議な魅力の持ち主だ。
 多彩な才能を発揮し、平成に入った50代の頃には、二科展で連続入選を果たし、銀座三越を始め、全国百貨店での個展で大反響を呼んだ。その他着物デザイナーから手作りインテリアの教室開設、販売に至るまでと、とても幅広い。
「とにかく私は、人を喜ばせる事が大好きなんです。喜んでくれるのなら…、という思いで、私しかやれないような企画も、楽しくこなしていますよ。代官山や熱海の『五月みどりの店・ビーナス』では、自分の目で見て素敵! と思ったギフト雑貨や洋服を安く紹介して、お客様に喜んでもらっています。そんなに安くていいの? なんて言われますが、経営というよりお客様の笑顔に出会えるのが何よりなんです」
――デビュー60周年記念曲「花 満開」
 「歌手デビュー50周年の時に記念の会を開いて頂き、大変感激した大切な思い出があります。芸能界の様々なジャンルから、今まで出会った大勢の方が勢揃いしてくれました。あんなに盛大にして頂き、本当に幸せ者だと思います。今回の60周年では、久しぶりに新曲をリリースする機会に恵まれました。今まで歌った事のない新しい曲に挑戦です。沢山の花の名前が出てくる歌で、『咲き誇る満開の花』=『五月みどり』のイメージで楽しめる様お届けします。カップリングの『お座敷ロック』『おひまなら来てね』は60年前の当時の歌声です」
――熟年ばんざい読書の皆様へ
 皆様にお伝えできるような、美容や健康の秘訣って特に何も持ってないんです。ただ、今までにいやいや仕事をしたことは一度もありません。人生においてもそうです。マイナスに考えることは嫌いですね。人生色々ありますが、あっけらかんとしてプラス思考で生きていくのが良いのだと思います」

 湯河原のご自宅の庭樹の剪定をご自分でされるとおっしゃっていた五月みどりさん。(お気を付けて下さい!)海の見えるカフェテラスのような素敵なベランダで、穏やかに微笑んでいる姿が目に浮かぶようなインタビューでした。

2017年10月
(聞き手:高橋牧子 編集長:山本英二)