50歳からの「生」と「性」

よりよく生きるための”大人の性教育”

 人生80年時代、子育てに翻弄される日々は一瞬で終わる。その倍以上の長きに渡る子ども抜きの人生後半を、どう心地よく生きていくか。命の根源であり、生きる原動力となる性の質を高めることは、中高年のよりよい人生の重要な課題だ。
 「性」は学ぶもの、「2人の関係」は育てるもの。本特集が、セックスの「性」と生きる「生」とを重ね合わせて、夫婦がよりよいパートナーシップを再構築するため、またシングルがパートナーを求めるきっかけとなれば幸いである。

年と共に変化するカラダを知ろう

中高年のセックスレス増加 さびしい夫婦関係と性モラルのゆるみが原因?

中高年夫婦のセックスレスが、ここ10年で急増しているという。 アンケートでは、男女共に配偶者への愛情を失った人が2~3倍に増えており、離婚願望も増加。不倫願望は男女共に倍増、実際の不倫関係が3倍となっている。 日本性科学会の医師や臨床心理士らで作る『セクシュアリティ研究会』代表者の荒木乳根子氏は、この10年間の中高年夫婦のセックスレス急増の理由は、男女共に加齢による性欲減退が主な原因ではなく、こうした「夫婦関係の希薄化」や「性規範の緩み」だと指摘。 とはいえ、親子中心型の日本の夫婦が「セックスフル」だった時代はもともと存在しない。その原因は、「性」が下半身の問題としてタブー視されてきた文化にあり、その一方で過剰なポルノの氾濫により「老い」と「性」とが切り離された結果でもある。

人間はいつまでセックスできるのか?中高年の性の真実

性を科学として捉える欧米では、セクソロジー(性科学)という学問が確立されており、高齢者の性についても精力的に研究が行われている。一方、高齢者の性に偏見が強い日本では「70過ぎれば人畜無害」などという戯言を未だに信じている人も多い。 しかし、医学博士の石濱淳美氏は「生物にとって食と性はもっとも大切な生理現象であり、食わねば死に、交わらねば滅びます。もちろん人間も、健康であれば死ぬまで食事をし、死ぬまでセックスできるものなのです」と言い切っている。
中高年が性に消極的になることの原因のひとつに、「性ホルモンの衰退」という考えがあるが、性ホルモン分泌のピークの山は二つあり、ひとつは思春期、もうひとつは更年期前後だ。以降も死ぬまで完全に涸れ果てることはない。それどころか、脳から出る性ホルモン(ゴナドトロピン)は50過ぎでは20代の倍以上分泌されている。

年とともに変化していくカラダの状態を正しく知ろう

とはいえ、加齢によって性的能力や性反応が衰えることも事実。男女共にお互いの状態を正しく知って、相互理解を深めよう。
〈男の事情〉
 男性ホルモン(テストステロン)の低下により、性欲の低下やED(勃起障害)を招く「男性更年期障害」が起こる。自覚症状があれば泌尿器科で相談を。性反応としては、ペニスの硬度が弱まり、勃起までに数分を要する。
〈女の事情〉
 閉経前後の女性ホルモン(エストロゲン)の低下により、ほてり、のぼせ、発汗などの不快症状がある「女性更年期障害」が起こる。自覚症状があれば婦人科で相談を。性反応としては、挿入時の膣の隆起や収縮が弱まる。また、膣粘膜が委縮して膣壁の伸びが悪くなり、性的に興奮した時の生理現象である膣潤滑液の出が悪くなり、性交痛が起こる。

生きる力を呼び覚ます性

「心で生きる」と書くのが「性」。性と生は重なるもの。人は生きている限り性に関わり続け、それを表現し続ける生き物である。男は女を意識し、女は男を意識することで心身レベルで変わりうる。性との良好な関係は人間の生きる力を呼び覚まし、若返りの特効薬となるのである。

セックスで病気を予防し、老化を遅らせ、若返りの効果が期待できる

性機能の衰えは個人差があるにせよ、誰しも経験することだ。これによって「おれは(私は)ダメになった」と思いこみ、異性やセックスへの関心を失う人も多いが、ちょっと待ってほしい。年をとることで思うように扱えなくなるのは、目・耳・手足など身体の他の器官も同様だが、視力ならメガネを、聴力なら補聴器を、足なら杖や歩行器を頼りにゆっくり歩くことで、なんとか対応できるではないか。
 性機能もまたしかりで、衰えて役割を終えたのではなく、補助器具や治療を頼りに新たな方法を見つけていけばよい。健やかに長寿を全うすることが望みなら、恋愛とセックスはその願いを叶えるものであり、心身の健康と若返りに貢献してくれるものなのである。
 実際に、セックスには心臓病、男性の前立腺肥大、女性の子宮内膜症などのリスクを減らす効果があるといわれている。この他にも、鎮痛作用、免疫力アップ、老化予防なども指摘されている。また、脳内ホルモン「エンドルフィン」の分泌を促すことから、頭痛や関節炎の痛みなどが和らいだという報告もある。さらに平均週1〜2回セックスすると、免疫力を高める抗体タンパク質の分泌が促進され、風邪や他の感染症から体を守る機能が高められるという。老化を遅らせたり、寿命を延ばす効果も認められている。気持ちの良いセックスで、「若返りホルモン」と呼ばれるDHEAの分泌が促進され、表情が明るくなり、顔や首、髪の毛などが若返るのだ。

老人ホームの男女交流と恋愛効果

 ある施設で、介護が必要な70過ぎの入居者に限り「男女同室」にしたところ、セクハラなどの性的トラブルが逆に激減。男女共に身だしなみに気を使うようになり、薄化粧をほどこす女性も登場するなど、全体的に活気が出た。相互のいたわりや言葉かけが増え、食欲が出てリハビリを始めるなど生活意欲も高まり、大多数に好評だったという。
 また、別のある施設では、紙おむつ着用の70代女性と半身マヒの60代後半男性とが恋仲になり、エレベーターでの逢瀬を重ね、男性の風呂上りの着替えを嬉しそうに手伝う70代女性の様子を職員が見守り続けたところ、やがて彼女は紙おむつを必要としなくなった。
 毎月1回、希望者のみ「日活ロマンポルノを見る会」を開催した東京の施設もある。寝たきりの痴ほう症で言葉も出なかった80代後半男性が、映画を観るようになって以来どんどん元気になり、日中は車いすに座って自分で食事がとれるようになった。

このように、「性」をタブー視せずに、積極的に生活に採り入れる事は、高齢化社会を乗り切る大きなヒントがあるのではないだろうか。恥ずかしがらずに、パートナーと語り合い、より良い答えを導き出して欲しい。