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岸朝子さんインタビュー 特集【旨いもの】 

「美味しいもの」を伝え続けて53年!
食生活ジャーナリスト 岸朝子さん


フジTV系「料理の鉄人」の審査員役で、お茶の間でも親しまれる存在となった岸朝子(84)さん。本業は食に関わる書籍や雑誌を世に出すジャーナリストだ。

スタートは32歳。専業主婦から料理記者に

 岸さんが料理記者としてスタートを切ったのは32歳のとき。「料理が好きな家庭婦人を求む」との求人に応募し、主婦の友社に入社した。「ご縁があったんでしょうね」と当時を振り返る。以降、場所を移しながら第一線で働き続け、今年で記者暦53年になる。

女子栄養学園で「洗脳」?!
 岸さんには主婦の友社以前にも「食べること」と専門的に関わった時期がある。それは10代の終わりに花嫁修業で通った女子栄養学園(現・女子栄養大学)での日々。「午後からは調理実習でしたが、午前中は栄養学の講義がびっしり。体と食べ物の関係についてすっかり『洗脳』されました」。ここで学んだことが、その後岸さんを方向付けた。

変化多き時代の食の伝道師
 主婦の友社入社後は記者としてのスキルを1から身に付けた。「今日やった仕事をノートに書いて提出して、添削してもらうんです。文章の書き方はそれで習いましたよ」。やがて一人前に成長し、次々と企画を実現。「子供のお弁当とか。調味料を%であらわす料理本とか、いろいろやりました」。この頃の日本は戦後の高度成長期。外国の料理がどんどん入ってきていた。「誰も見たことのない料理でも作れるように」と「大さじ=15cc」などの単位を取り入れ、明快なレシピの提供に努めた。食の分野以外では、医学全書など健康に関する仕事も。こうして13年が過ぎた。

母校の出版部へ、そして独立
 43歳のとき、主婦の友社から母校・女子栄養大学の出版部へ。古巣に戻ったのは大学の創設者でもある恩師、香川綾博士の招きだった。ここで岸さんは「栄養と料理」の編集長を10年にわたって務めた。「綾先生には『なんでもやってみたいことをやりなさい。でも学校はつぶさないように』と言われました」。その言葉を胸に「食べ歩き」や「痩せる食事」などの先駆的な特集を組み、発行部数を2倍にふやした。「食べ歩きの記事は、アンノン族の先を行っていたといってくれる人もいます」。その後、55歳で編集プロダクション「エディターズ」を設立し、独立。現在に至るまで、料理や栄養、健康に関する出版物を発信し続けている。

古希の記念にTV出演。お茶の間の人気者に

 「おいしゅうございます」のセリフがブームになった「料理の鉄人」への出演は平成5年の秋から。「何でも好奇心ですからね。出演者の人選の相談に乗るうちに、審査員として出ないかという話になって。70歳の記念にと軽い気持ちで引き受けました」。ところが番組が大ブレイクし、知名度が急上昇。「エスカレーターですれ違った修学旅行生が『あ、岸朝子さんだ!』って。手を振られたり握手を頼まれたりしました」。実は「料理の鉄人」は現在アメリカで放送中。人気番組のため、岸さんはアメリカでも有名人だ。渡米の際には、顔を知られているおかげで、忘れ物がすぐに戻ってきたりしたそう。

命と食の深ーい関係
 TV出演後は講演会の仕事も増えた。岸さんが一貫して伝えているのは食の大切さだ。「命は食にあり。いいかげんに食べていると人生を左右します」。実生活でも食を大事にし、健康を保つ。「おかげさまで血圧を下げる薬を飲んでいるくらいで、元気です」とニッコリ。「美味しいものとの付き合い方は?」の問いにはこんな答えが返ってきた。「何を食べてもよいのです。ただ、食べ過ぎず、体に必要なものをきちんととることが大切です」。立派な『実例』である岸さんの言葉だけに、説得力がある。

好物あれこれ
 多くの料理本を出し、お店紹介をしている岸さん。どんなものを食べているのだろうか?好物を伺ってみた。「途中下車してまで頂きたいのは、京都の先斗町にあるお店の『なれずしの茶漬け』。大阪で講演会がある時には、京都で1度新幹線を降りて食べに行きます」。実はこの料理、京都でタクシーの運転手さんから教わった。「食べたことのないものの話を聞くと悔しくて」。さっそく行ってみて以来、すっかりはまっている。
 『最後に食べたい食事』として挙げて下さったのは、炊き立てのご飯と味噌汁。「味噌汁の具は玉ねぎとジャガイモ、味噌は信州味噌がいいですね」。美食家のイメージがある岸さんだが、選択はいたってシンプルだった。ちなみに最近お気に入りの米は宮城県産のミルキークイーン。「大粒でモチモチしていて美味しいですよ」。

目指すは生涯現役

 食を伝えて半世紀。84歳の今も7本の連載を抱える。この他、20年以上続けているという店紹介の仕事も。お話を伺ったオフィスには、床から天井まで壁一面を占める本棚が。びっしり詰まっているのは、ご自身が関わった本や記事の切り抜き。「仕事はできる限り続けていきたいですね」。美味しいものと人々を結ぶ岸さんの軌跡は、これからも続いていく。

(取材・構成/西村信子)

岸朝子さんプロフィール
食生活ジャーナリスト。1923年、東京生まれ。女子栄養学園(現・女子栄養大学)卒。32歳のとき主婦の友社に入社し、料理記者に。その後、母校である女子栄養大学の出版部に転職。「栄養と料理」の編集長を10年務める。1979年、(株)エディターズを設立。料理、栄養、健康に関する雑誌や書籍を数多く企画、編集する。(財)日本食生活文化財団の食生活文化金賞(1997年)、オーストラリア政府のバッカス賞(1999年)、フランス政府のバッカス賞シュヴァリエ(2006年)などの受賞暦あり。
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