野村 武範さん

学園ドラマ「飛び出せ!青春」で熱血教師役を演じた村野武範さん。教師らしからぬ三枚目キャラクターと独特の風貌がお茶の間の共感を呼び、一躍青春スターの仲間入りをした。芸能界で長きにわたり活躍し続けている彼だが、古希を迎えた直後に、咽頭がんと宣告を受ける。ステージⅣのがんから生還した体験をまじえながら素顔で語ってくれた。

自分の体だからこそ
納得のいく治療で命を守る。

商社マンを目指すも挫折、
思いつきで入部した学生劇団

東京都北多摩郡の自然豊かな清瀬村(現清瀬市)で生まれ育った。柳瀬川で魚を獲り野山でホオジロを捕まえるなど、腕白少年だった。父親が所沢の出身で、小学生時分は東川で遊んだ懐かしい記憶もあり、西武沿線は馴染みが深いと語る。
演劇との出会いは中学生の時。演劇部に所属していた友人に、男性部員が少ないとの理由で入部を頼まれた。演劇部時代には、豊島区や東京都の代表としてNHK「芸術の窓」のこどもの日特集に出演した思い出がある。
「特に演劇の道を志してはいなかったです。商社マンになるという夢を持っていたので、早稲田の商学部に進学しました。クラブも当然『商業英語会』に入ったのですが、そこでは一切日本語が禁止で、会話は英語のみ。商業英語や簿記の授業も自分には合わなく、商社マンを目指すのは大学一年の夏に早々諦めてしまったのです。大学卒業までの暇つぶしくらいに、と思って入ったのが、学生劇団『こだま』です。そこの先輩には久米宏さん、同級に長塚京三、田中真紀子がいましたね」

「飛び出せ!青春」
熱血教師役でブレイク

テレビが一家に一台、チャンネル権を握るのが父親の時代。日曜夜の8時は「大河ドラマ」か野球中継が常。そんな中、「飛び出せ!青春」は、若者から火が付きじわじわと視聴率を上げていった。
「映画で不良高校生役を演じた数か月後に舞い込んで来たのが、学園ドラマの教師役。台本では、世界を放浪してきた新米先生。当時流行していた長髪のまま役に挑もうとしましたが、プロデューサーに『学園ドラマの先輩の夏木洋介さんや竜雷太さんをみなさい!こざっぱりしてるじゃあないか!本番には、短く切ってきて』と、半ば命令でしたね。僕は、『このままでやらせて下さい。視聴者から一通でもクレームが来たらすぐに丸坊主にしますから』と、そのまま撮影に入ったのです。オンエア後、『ぼさぼさ頭の型破りな先生が新鮮』と逆に好評で、長髪のまま撮影続行でした。『飛び出せ青春』スタートの半年後から長髪の出演者が増え、学園ドラマの後輩の中村雅俊にも長髪の先生役が引き継がれていったわけ」

グルメレポーターに抜擢

「30歳を過ぎてから趣味で磯釣りを始めました。ヒラマサとかシマアジとか…大ぶりの魚を釣っては、見様見真似で捌いて、家族に料理を振る舞うようになったんです。美味しい!と褒められると、料理を本気でやってみようかなという気になり、料理の基本を勉強するようになりました。『くいしん坊!万才』のスタッフに『村野武範は料理に詳しい』と話が伝わり、食レポのお声がかかりましたね。
7代目くいしん坊としてのロケでは郷土料理魚をいただく事が多く、独特の素朴な味の表現をするのに苦労しました。魚のはらわたを野菜で煮込んだ気仙沼の料理『あざら』は、色も匂いも強烈で『たまらない味』としか言いようがなかったですね(笑)」

末期がんからの生還

今から5年前、70歳の誕生日を迎えて間もないある日、ふと首にしこりがあるのに気付いた。病院では風邪と言われたが、不安に思った彼はかかりつけ医師の診断を仰いだ。すぐさま精密検査を勧められ、施設の整った大きな病院で検査を受ける事になる。
「『首筋のしこりは舌から転移したもので、悪性の舌癌の末期です』と、いきなり宣告を受けました。医師に『余命は聞かない方がいい』とまで言われ、余命幾ばくも無いと知っても、自覚症状は何もないので実感はありませんでしたね」
彼が悪性腫瘍と告げられた日から、奥様は必死になってインターネットで最新の治療法を検索し続けた。「咽頭がんステージⅣB」から生還したという記事を見つけ出し、陽子線治療が南東北の病院で受けられることを知った。
「『誰の命でもない。自分の命だからからこそ納得のいく治療を受けたい』と、新たな病院への紹介状を書いてもらいました。手術後は5キロ程度痩せただけで、辛い副作用もほとんどありませんでした。医療は、日進月歩です。ステージⅣの中咽頭がんからでも、復活が可能な時代なのです。転院は勇気がいる事でしたが、検査資料や紹介状の請求は患者の権利です。納得のいく治療を受け、『自分の命は自分で守る』。そのことを皆さんにお伝えしたいです」

現在、自らの病体験をもとに、講演や講座を各地で開催している。登壇の時には、主演ドラマの主題歌「太陽がくれた季節」を歌い会場を沸かせ、熱血教師役さながら、参加者に熱いメッセージを送っている。ユーモア溢れるひょうひょうと語る口調は健在だ。

聞き手 高橋牧子
編集長 山本英二

Profile 村野武範(むらのたけのり)
1945年4月19日生まれ、東京都清瀬市出身。文学座研究生時代に「走れ、玩具」(NHK)で主演デビュー。1971年公開の映画「八月の濡れた砂」での不良高校生役で脚光を浴び、翌72年、「飛び出せ!青春」の熱血教師役で人気を不動のものとする。88年「食いしん坊!万才」では7代目食いしん坊としてリポーターを務める。現在は、俳優、司会、歌手、講演活動など、幅広い分野で活躍中。