齢を重ねるのが楽しみになる生き方・暮らし方

人生100年時代という言葉を良く聞くようになった。今の年齢からして、あと何年生きることになるのだろうと想像すると、ちょっと不安になるという方が多いのではないだろうか? そんな人たちのために「齢をとるって、怖くない。むしろ楽しみ」と思わせる人の生き方、その考え方を著した本を紹介しよう。

【ばぁば、93歳。暮らしと料理の遺言】
料理研究家 鈴木登紀子さん

昨年末96歳で亡くなるまで現役を貫き「ばぁば」の愛称で親しまれていた日本料理研究家の鈴木登紀子さん。青森で生まれ、太平洋戦争終結直後に焼け野原の東京へ嫁いだ。近所での料理の腕前が評判になり、教室を開く。これがきっかけで『きょうの料理』や『キユーピー3分クッキング』に出演。80代後半になって大腸がん、肝臓がん、心筋梗塞と立て続けに重い病気に見舞われたが見事に克服し、真っ赤なマニュキュアを欠かさず、月に一度は焼き肉を楽しみ、いつも笑顔を絶やさないチャーミングな姿は、多くの人の目に焼き付いている。
「ばぁば、93歳。暮らしと料理の遺言」では、人生の仕舞い方、老いの楽しみと健康のコツ、「和の心」、忙しい女性たちへ向けた料理のコツ、これだけは遺したい「遺言レシピ」など独特のユーモアで語っている。彼女のていねいな暮らし方は、共感する点が多く、見習いたいと感じさせられる。

【九十八歳になった私】
小説家、評論・随筆家 橋本治さん

一昨年、70歳で亡くなった橋本治さん。該博な知識と独特な文体を駆使して文筆家として活躍した。また、編み物にも才能を発揮。製図を作ってから精密に編み込まれたセーターなどが話題を呼び、「男の編み物」を出版するに至ったほどだ。バブル期の借金を抱えて死ぬ直前に完済するまで、毎月60万円の返済をしていたという。
「九十八歳になった私」は亡くなる前年に出版され、2046年を98歳の小説家として生きる自分自身の姿をフィクションとして描いた近未来SF小説。この小説の世界の設定は大震災後の東京でディストピア。独居老人の橋本さんは、生きるのは面倒くさいとボヤキつつ、半ば嫌々ながら文章を書き続けている。ユーモラスで前向きすぎない言葉の数々は、現代を少し窮屈に前のめりに生きている私たちとは対照的だ。少し立ち止まりってホッとひと息させてくれるものになっている。

【一切なりゆき ~樹木希林のことば~】
女優 樹木希林さん

2018年に惜しまれつつ亡くなった女優の樹木希林さん。夫の故内田裕也さんとの夫婦関係も話題となった。死の直前まで、精力的に映画に出演。全身をがんで蝕まれながらも、それを感じさせない自然体な生き方が共感を呼んだ。
「一切なりゆき ~樹木希林のことば~」は、彼女が遺したコラムやエッセイ、インタビューの中から選りすぐりの言葉を収録。
若い頃には簡単にできたことを辛く感じるようになったり、体調を崩すことが増えたりすると、どうしても気分が落ち込んでしまうもの。しかし、希林さんのように「欲なんてきりなくある」と考えると、できないことが一つや二つ増えるくらい、たいしたことではないと思えてくる。自ら考え行動し、そして面白がる、無理に背伸びなんてしない、常に等身大であるがまま全てを受け入れる。「一切なりゆき」のタイトル通りだ。

【九十歳。何がめでたい】
作家 佐藤愛子さん

小説家佐藤紅緑氏の次女として生まれ、異母兄に詩人サトウハチローを持つ彼女。夫の肩代わりした借金返済のためテレビ出演や全国講演を遂行。戦後の世相の乱れ等を厳しく批判するので「憤怒の作家」と呼ばれていた時期もある。その自身の波乱万丈な人生体験を書いた「戦いすんで日が暮れて」で直木賞を受賞した。現在97歳で健在だ。
エッセイ集「九十歳。何がめでたい」は、2017年の年間大ベストセラー1位となった一冊。つまらない「正論」をふりかざして小さくまとまり、合理化と称した理不尽が広がる現代社会を、90歳超の見識と体験値で「いちいちうるせえ」とバッサリ切捨てている。歯切れのよい痛快さとその勢いにつられ、笑って元気づけられること間違いないだろう。自分で読むのはもちろん、両親や祖父・祖母など、ひと足先に90歳を迎える人たちに贈ってあげたい本だ。

【いくつになっても、今日がいちばん新しい日】
医師 日野原重明さん

昭和16年に東京の聖路加国際病院で内科医として医師人生を歩み始める。当時では珍しかった「チーム医療」の重要性を主張して看護師の教育に力を注いだほか、民間の病院で初めて人間ドックを導入。その後、聖路加国際病院の院長や国際内科学会の会長などを歴任し、平成7年に起きた地下鉄サリン事件では、陣頭指揮をとり被害者の治療に当たった。全国の小学生向けに「いのちの授業」を合計200以上の学校で実施。多くの人から賛同を得た。2017年、105歳で大往生を遂げた。
「いくつになっても、今日がいちばん新しい日」は、亡くなる直前の2017年に出版されたエッセイ集。人生の後半を迎える人へ向けて、自分を輝かせるためのエールをやさしい言葉で語っている。「大丈夫だよ」と励まされたような、ほっとする読後感を与えてくれる。精神的な事だけに留まらず、健康診断の結果の見方やセルフチェックなど、医師らしい章もあり参考になるだろう。