数々の人気ドラマや話題の映画に出演し、実力派俳優としての地位を確立しつつ、プロ麻雀リーグ「TEAM RAIDEN(雷電)」所属のプロ雀士としても活躍する萩原聖人さん。二足の草鞋を履き多彩な顔を覗かせる彼に、この春公開の最新主演映画『月の犬』の話題を交え、お話していただいた。
先輩の背中を追いかけて成長し
後輩にみられる自分の背中を意識していきたい
幸運な偶然が呼び寄せた俳優への道
母親が営む飲食店の手伝いをしていた頃、TVドラマ『あぶない刑事』のスタッフが、彼の働く店でキャスティング会議をしていたと言う。探していたキャストの少年の年齢や背格好など、イメージが偶然にも彼と一致していることから、このドラマへの出演オファーが舞い込んだのだった。
「10代で短期渡米をしていた頃、ニューヨークで観た映画『エイリアン2』で、観客の興奮する姿に感銘を受けました。その場に拍手を送るべき対象がないにもかかわらず、スクリーンの中の俳優さんや制作スタッフさんのクレジットに惜しみない拍手をおくっている…、日本ではあまり見ることがない光景なので、かなり衝撃的でした。『自分もこんなふうに、人に影響や感動を与える仕事をしたい…』と憧れ、漠然と俳優への道を考えるようになりました。
日本に戻ってから間もなく、TVドラマのキャスティングスタッフの方に偶然に声をかけていただいたのがきっかけとなり、15歳で俳優デビューの道が開けました」
現役Mリーガーとして二足の草鞋を履く
俳優としてこれまでに、NHK大河ドラマや土曜時代ドラマなど、多くの話題作に出演している以外にも、韓国ドラマ『冬のソナタ』で主人公(ぺ・ヨンジュン)の吹き替えをしたり、ナレーターとしても高い評価を得ている。また、日本プロ麻雀連盟に所属するプロ雀士としての活動を始めて8年目を迎えている。
「僕は時間を器用に使うことができる人間ではないので、勝ち負けの勝負がはっきりとしているプロ雀士の世界と俳優業をこなすのは、並大抵なことではないですね。今、現役Mリーガーとしてやらせていただいているのは、僕の中では凄く意味があることで、決して片手間でやっている訳ではありません。役者をやりながらも、試合がある日はとがって勝負に臨んでいます。周りには『よくやってるなぁ』と言われるのですが、麻雀に対する思いも俳優業に対する思いと同じように、根底に好きだからという気持ちがあるからです。僕にとって別の二つの世界で生きていくことは、決して負担ではありません」
この春公開
最新主演映画『月の犬』
映画『安楽死特区』の原作は、在宅医として2500人以上の看取りを経験してきた医師であり作家の同名小説だ。尊厳死をテーマにした映画『痛くない死に方』で、死生観と社会問題に真摯に向き合ってきた高橋伴明監督が、この作品で安楽死をリアルに描き出している。観る者一人ひとりに生と死の根源を見つめさせ、重いテーマを投げかけるこの映画の中で、平田満さんは末期がんに苦しみ安楽死を希望する難しい役を演じ、印象深い重要なシーンを担っている。
「ストーリーも状況設定もありますが、感じ方は人それぞれで、『こうでなければいけない』という観方がないのが、この映画の素敵なところです。最期の時を迎える患者とその選択を支える医師、そして愛する家族や恋人、それぞれの視点が織りなす群像劇なので、それぞれのキャラクターに感情移入すると思います。主人公だけでなく、出てくる人それぞれにシチュエーションがあり、観る方の年齢や性別、キャリアなどで観方が変わってくるのではないでしょうか。生と死は誰しもが訪れ、みな違っていて当然です。観終わった後に色んな事を感じていただき、皆さんで大いにディスカッションをしてもらいたい作品です。
映画のエンドロールの後に、『安楽死』を望んでいる実在の女性が登場し、国外でそれを試みる事に関して、淡々とインタビューに応えている様子が流れます。最後のその数分間も、まるで一つの映画作品のようで、女性の実際の受け応えはインパクトがあります。議論になりうる観どころとなるでしょう」
居場所があって生かされているのは幸せなこと
「映画『月の犬』の監督は、脚本執筆時、物語を作るというのではなく、主人公の辿る軌跡を追っていくことで必然的に物語が生まれ、心のありようが物語を紡いでいく形をとった。人生に絶望した大人たちの変化していく日常を描いたノワール作品で、主人公を演じる萩原聖人さんは、妻を亡くした絶望や喪失感を抱えた男の役を、その佇まいや眼差しで見事に表現している。
「元反社である男の生き様を描いている独特の作品ですが、僕はこの世界観の映画を観て育ってきた年代です。それだけに、登場人物のリアリティをどう出せるか…というのがテーマでした。人って絶対に生き様が匂いとして出てくると思うので、それをどうまとおうかを意識しましたね。守るものがない人間の向かう先、曖昧に生きざるを得なくなっている男の匂いを醸し出せれば…、という思いで役に入り込みました。
最期の立ち回りのシーンは、決してかっこよくキレイにはやらない…、男たちが抱えている痛みをアクションで伝えたい場面です。この映画を自分の人生と重ね合わせて観る人はいないと思いますが、自分の人生はどういう伏線の回収をするんだろうか…、そんな視点で観てもらえればと思います。そして、余韻と匂いを感じてほしいですね」
小さな喜びや楽しみを積み重ねることが大切
「今年55歳を迎えますが、健康のために特別何かをしているということはありません。歳を重ねるとともに劣化は確かに感じる時があるかと思いますが、過剰に気にすると逆にストレスになりますから、自然体でいるのが健康の秘訣ですかね。人は、大きい喜びを期待しがちになりますが、小さくてもよいので楽しみが沢山さんある方が、健康には良いのではないでしょうか。
これから先も、先輩方の背中を追いかけて学び、僕自身も今後は後輩たちに見られていくんだろうなと意識しながら成長していきたいですね。自分をどんなに大きく見せようとしても、そこににじみ出ている匂いがないと、その背中は大きく見えないものだと思います」
今後、出演してみたい作品や演じてみたい役どころを伺ったところ、「どんな役でもよいので『ゴジラ』映画に、ぜひ出てみたい!」と、少年のように目を輝かせて語っていた萩原聖人さん。10代に映画館で衝撃を受けた時の感動を、今度は彼自身が観客に与える番なのかもしれません。今後の彼の出演作品に目が離せません。
(聞き手 高橋牧子 撮影 岡田充)
Profile 萩原 聖人(はぎわら まさと)1971年生まれ 神奈川県出身
1987年の俳優デビュー以来、ドラマ、映画、舞台など幅広く活躍。94年映画『学校』、『月はどっちに出ている』、『教祖誕生』で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。95年『マークスの山』、97年『CURE』で同賞優秀助演男優賞受賞。
近年の主な出演作は、20年『Fukushima 50』、22年『島守の塔』、25年『栄光のバックホーム』、26年『ハローマイフレンド』『君が最後に遺した歌』など。待機作に『2126年、海の星をさがして』の公開が控えている。
