沢田知可子さん

 21世紀に残したい泣ける名曲」第一位に選ばれた「会いたい」を歌う沢田知可子さん。現在、「ココロとカラダに優しい歌薬」をテーマにしたコンサートや、杉山清貴さん、中西圭三さん、辛島美登里さんらと共演の「アラウンド40メモリーコンサート」で全国ツアーを10年以上続けている。昨年、芸能生活30年を迎え、熟年世代が直面するリアルな課題『終活』というテーマに向き合い音楽活動を展開している。彼女にお話をして頂いた
終わりを意識しするからこそ
今というこの瞬間がこんなにいとおしい
Profile 沢田知可子(さわだちかこ) 
1963年生まれ 埼玉県与野市(現さいたま市)出身

 1987年「恋人と呼ばせて」でデビュー。4枚目のアルバム収録の「会いたい」が、オリコンセールスで87週にわたりチャートインし、130万枚を超える大ヒット。
 日本有線放送大賞を受賞し、第42回NHK紅白歌合戦に出場を果たす。2004年の中越地震を機に各地でチャリティーコンサートを行うようになり、2005年から「歌セラピーコンサート」をスタート。今年6月に発表の「愛の終活」をテーマにしたアルバム「LIFE~シアワセの種~」が話題を呼んでいる。

――新年会で披露した歌声が転機のきっかけに
 浦和警察署の交通安全協会に勤務をしていた彼女。運命を変えたのは、友人達との新年会で杏里の「悲しみがとまらない」を歌った事。丁度同じ店に居合わせた市役所のブラスバンド部員から、「成人式当日にこの曲を歌ってほしい」と熱いオファーが届いた。「自分の思い出作りに…」と、成人式会場の大ホールで生バンドをバックに歌い、その時のバンド仲間とライブハウスで活動。ボーカルとして歌い続けたことが音楽の道に入るきっかけとなった。
 「もともと『天職に転職しよう!』とキャッチを掲げ、自分に何ができるのかを漠然と考えていた時期。ライブハウスに通うお客様から『貴女の資本はその声だから、歌で人生の勝負をしてみなさい』と衝撃的なアドバイスを頂きました。そこで、当時22歳の私は、ずっと憧れ続けていた地元の先輩に歌手を目指すことを相談したのです。帰ってきた言葉が『俺がお前のファン第一号。俺が応援するから絶対成功するよ!』との舞い上がるようなセリフ。でもその彼は、一週間後に突然交通事故で亡くなってしまったのですが…。自分の人生を変える2つの言葉を同時にうけ、歌手になるという明確な目標が出来たのです」
――名曲「会いたい」との出会い
 「『会いたい』はデビューして4枚目のアルバムに収録された曲。没した恋人を想い、在りし日を回想し会いたいという気持ちを募らせる歌です。詞は30回以上も書き直しされたそうで、私の下へ届いたのはレコーディングの当日ぎりぎり。驚いた事に、その詞が私自身の思い出と重なる内容だったのです。私が歌手になる事を後押ししてくれた憧れの先輩。まるで私を叱咤激励してくれるかのように運命を感じました。レコーディングは感傷に浸る間もなく、たった3回淡々と歌って収録終了。心の準備が何もない状態で、音を辿るように歌いあげた『会いたい』が世に出たあの歌です。感情は入れずに無で歌ったことが、逆に聞く人それぞれの想いやドラマを浮き立たせてくれたのでしょう。じわりじわりとチャートが上がっていき、年間リクエスト数の1位を獲得という奇跡が起こりました。当時増え始めてきたコンビニで『足が止まる歌』と言われ、有線でこの曲が流れると終わるまで帰らないという現象が起きたほど。後までも『泣ける名曲』として語り継がれるまでになりました」
――明日への不安を取り去る鎮魂歌
 「デビューの頃から今もかわらず活動の拠点としているのはコンサートです。コンサートホールだけではなく、体育館や会議室でも歌います。歌をセラピーにしようというテーマに挑み、ピアニストの夫と共に『歌セラピーコンサート』を積極的に行っています。これは『会いたい』との出会いが教えてくれたのですが、泣く事は実は笑うのと同じように心にとって大事な事。悲しい時に堪えるよりも、悲しい自分と向き合い涙する方がとっても良いのです。
 2004年の中越地震の後、長岡の復興チャリティーに携わる機会がありました。この地でのコンサートで『会いたい』を歌った時、この曲は亡くなられた方への鎮魂歌ではなく、明日への不安を抱えて生きている方たちへの歌なんだ…、そんなスィッチが自分の中にグッと入っていきました。歌を薬に変えていく『心と体に優しい歌セラピーコンサート』は、もう10年以上も続いていてライフワークになっています。有り難いことに、PTAや公共団体の方々のテーマにもはまることが多く、講演活動的に行なっています。その活動の一環として2010年から『アラウンド40 メモリーコンサート』もスタートし、戦友と呼ぶにふさわしいアーティスト達と全国ツアーを行っています」
――愛の終活をテーマにしたニューアルバム
 「今回のアルバムは、『共に過ごした恋人・夫婦達の人生の終わり方』というリアルなテーマです。人間である限り避けては通れない「死」と真摯に向き合う事により生まれました。「命」に終わりがあるからこそ、受け止め向き合い前向きに生きる意志が生まれる…、それを音楽でフォローしたのが、ここに込められている作品です。30年間『会いたい』で恋人の『死』というテーマを見つめてきた沢田知可子だからこそ、お届けできる歌なのです。一言に『愛の終活』といっても、様々な形があると思います。色んな考え方や想いを集めた終活短編集になっています。人生をドラマティックに生きるため、皆さんが明日に向かっていく一つの参考にして頂けたら思います」
 「表現者として常に語り部という立ち位置で歌い続けたい…」という彼女。今後の活動に益々期待が膨らみます。

2018年8月
(聞き手:高橋牧子 編集長:山本英二)