シリーズ 健康長寿への道4

〜放っておくと怖い口の中の病気〜

口の健康と健康寿命の密接な関係

歯周病をはじめとする口の中の病気は心臓疾患、糖尿病、さらには認知症など様々な病気に影響していることが最新の研究で明らかにされています。また、寝たきりの高齢者に適正な口腔ケアを行うことで状態が改善するという研究結果も報告されており、健康長寿を伸ばす鍵として「口腔ケア」が注目されています。そこで、入間市の「えんどう歯科」院長、遠藤学先生に口腔と健康寿命の関係についてお伺いしました。

口の健康と健康寿命

最近「人生100年時代」という言葉をよく耳にします。実際に私たち日本人の平均寿命は伸び続け、現在90歳近くになろうとしています。しかしながら、人生の大半を健康で過ごせる人がいる一方、病気などにより、寝たきりや介護が必要な状態で晩年を過ごす方が多いのも事実です。自立して健やかに生活を送れる期間を「健康寿命」と言い、実は平均寿命と比較し10年程度短いという統計結果が出ています。つまり、平均で10年近く支援を要する期間があるということなのです。どうすればこの期間を短くすることができるか? それは口の中の状態と大きく関係しているのです。
残っている歯が多い人と少ない人を比べると、平均余命が大きく変わってくることが最近の研究により明らかにされました。歯を失って咀嚼能力が低下すると、認知症の発症率が高くなったり、胃がんなど消化器系のガン発症率が高くなることも報告されています。また、歯周病が心臓病や糖尿病、脳血管障害など多くの全身疾患を悪化させることもわかっています。
健康寿命には実は口や歯の健康が大きく関わっていて、口腔内を健康に保つことが健康寿命を延ばすために非常に重要であるわけです。

認知症と誤嚥性肺炎

高齢化社会を迎え、大きな問題となっている認知症ですが、健康な歯が残っている人、むし歯、歯周病の治療をしっかり受けて、きちんと自分で咬める人は認知症になる確率が低いということがわかっています。
また、日本人全体の死因第3位である肺炎ですが、実は肺炎で亡くなる方の96%が65歳以上の方なのです。通常、食べ物が食道ではなく気管に入るとむせることで、肺まで入り込んでしまうことを防ぎます。しかし、高齢になりこの機能が低下すると、気管に入った食べ物を排出できなくなってしまいます。この時、歯みがきが十分でなく、口の中に細菌がたくさんいる状態だと、口腔内の細菌が肺に入ってしまい肺炎を起こしてしまうのです。これを誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)と言います。つまり、口腔ケアを十分に行うことは、誤嚥性肺炎の予防に大切なのです。

歯を失ってしまったら…

知県知多半島に住む65歳以上の住民を対象にした研究では、歯が多く残っている人、歯が少なくても義歯等使用している人と比較して、歯を失い入れ歯を使用していない場合、認知症発症のリスクが最大1・9倍となり、転倒するリスクが2・5倍になるという結果が示されました。
また、20本以上自分の歯が残っている人と比較して、19歯以下の人は、要介護認定を受ける確率が1・2倍になるという結果も出ています。つまり、歯が少ない人ほど、将来的に要介護状態になる可能性が高くなるということなのです。

定期的に歯のチェックを

ここまでのお話から、自分の歯を大切にケアして残すこと、たとえ歯を失っても治療をしっかり行い、入れ歯やインプラントで口腔機能を回復することは、健康寿命を延ばすためにとても大切であることがお分かり頂けたかと思います。
自分の歯を残す一番の秘訣は「歯磨き」です。そしてご自身でお気に入りの歯医者さんを見つけていただき、定期的にチェックを受けることが非常に重要と言えます。
私は、長寿の秘訣は「美味しくご飯を食べること」だと常々考えています。食事は人生の最も素晴らしい喜びの一つであり、健やかに人生を謳歌するためには欠かせないものです。皆さんにもこれを機会にお口の健康について今一度考えていただければと思います。