ダ・カーポ

 「初心忘れるべからず」という思いを込め、演奏記号のda capo(最初に戻るという意味)にちなんで名付けられたグループ名『ダ・カーポ』。その名の通り、新しいことに挑戦しては、初心に戻って私達に幸せを運ぶ歌を聞かせてくれる。世代を超えた根強い人気のダ・カーポの素顔の言葉に耳を傾けたい。
相手を生かして自分も生きる。
ハーモニーは、人生そのもの
Profile ダ・カーポ 
榊原 まさとし 1949年2月生まれ 神奈川県横浜市出身
榊原 広子 1950年12月生まれ 栃木県佐野市出身
 1973年のデビューから今年で45年目を迎える夫婦デュオ。デビュー翌年の「結婚するって本当ですか」が60万枚の大ヒットとなり代表曲となる。
 1980年代までフォークソングを中心にヒット曲を飛ばし、芸能界で確固たる地位を気付く。現在も童謡やアニメ主題歌など幅広いジャンルも手掛け、親しみのあるメロディーと美しいハーモニーで感動を与え続けている。
――横浜で運命の出会い
 音楽学校に通う兄がいて、幼い頃から家にピアノがあり自然に音楽に親しんでいったまさとしさん。ピアノを弾くのが大好きで、子供心に将来は音楽家になろうと決めていた。
「フォークブーム真っただ中の20歳の頃、横浜で若者30人位の音楽グループを結成しました。コンサートをしたりオーディションを受けたり…、お金は無かったけど未来を夢見ての楽しい日々。そんな時、仲間に入ってきたのが広子。初めて彼女の歌を聴いた時、これは!と思いました。心を揺さぶる声の持ち主でしたね」
 一方、栃木で商売を営む厳格な父親の下で育った広子さん。あまりのオテンバぶりを正そうと習わされたお琴が音楽との出合いだった。
「歌が大好きで小学校の頃からずっと合唱部。高校時代はフォークソング同好会を立ち上げ歌ってました。でも、跡取り娘の私は卒業後家業を継ぐ為、横浜のスーパーに修業に出たのです。その頃目に止まったのが『歌う仲間募集』のポスター。そこに通っているうちにあまりの楽しさで、気付いたら会社を辞め寮も出て、音楽の世界にのめり込んでいました。当然ながら父には勘当を言い渡され、この道でやるしかなかった訳です」
――女性の心を掴んだ 「結婚するって本当ですか」
 当時トワ・エ・モアが解散の時期、レコード会社がポスト・トワ・エ・モアを競って探していた。その年は男女デュエットが17組もデビューしたが、その中で爆発的に売れたのがダ・カーポだった。
 ヒット曲「結婚するって本当ですか」は、広子さんが友人に宛てた手紙が元になっている。二人で試行錯誤し完成させたこの曲が女性の心に響き、大ヒットとなったのだ。
 「曲がヒットするって化け物です。自分達は何も変わらないのに周りがどんどん変わっていく。ある時、名古屋駅で人の渦を見て『誰かアイドルでも来ているのかな』と思いきや、ドッとファンに囲まれ僕の髪の毛を記念にと引っぱられるあり様です。寝る時間も無く昼も夜も分からなくなる様な生活が、10年間程続きました」
――デビュー後7年目にしてゴールイン
 「僕たちは性格が正反対。当時からお互い妥協できなくてよく喧嘩しました。広子は新しい世界に真っ先に頭を突っ込む行動派。一方僕は何事もじっくり取り組むタイプ。気が付くと彼女だけが先に行って置いてきぼりされた気分になる事もありました。でも、世間に注目されてくると、二人で力を合わせなければいけない場面が増える訳です。一緒に協力していく中で、自然な形で結婚しました。性格が真逆というのは良い事なんだ、と今は思えます」
 「周りは私達がいずれ結婚すると思っていた様ですが、私達は恋人というより『同志』という感じでした。私は『スピード・変化・自由』が大好きで、いつも刺激を求めるタイプ。でも、二人共私みたいな性格だと、どこに行っちゃうのかわかりません。そこを彼がぐっと押さえてくれたんだと思います。お互いの無い部分を補っているのだと認め合うには随分と時間がかかりましたが、この先一緒に生きていく相手は彼以外考えられなくなったのです」
――童謡には世の中を変える力がある
 「最近思うのですが、今の若者達は抒情的な感覚を失っているのではないでしょうか。コンサートの中で、童謡コーナーがあり『月の砂漠』や『ふるさと』を歌うと、涙を流す中高年方を多く目にします。美しい日本語で日本の四季や季節の行事を歌う童謡の世界が甦れば、もっと良い世界になるはずです。子供の為にこれだけ多くの歌を作っている国は、世界でも類を見ないそうです。情景とか風景が目に浮かぶような童謡を小さい頃に聴かせる事はとても大切で、それが『絆』とか『愛情』を育む力になるのではないでしょうか。私達のライフワークとして童謡や抒情歌を、今後も歌い続けていきたいです」
――熟年世代へ、ハーモニーのすすめ
 「歳を重ねると、自分のことで精一杯になり周りが見えなくなりがちです。その点、合唱とかハーモニーは良いですよ。相手の声を聴き意識して併せながらも、しっかりと自分のポジションを守らないといけないのです。相手の歌声を生かしながら自分の声も生かす。そうすると重なり合って違う音が生まれるのです。自分達は、45年間それでやって来ました。まずは身近にいる方、ご夫婦同士でハモってみるなんてとても素敵だと思います」
 お互いの存在の大切さを認め合えたお二人。一体の空気が伝わってきて、理想の夫婦の原点が見えるようでした。

2018年6月
(聞き手:高橋牧子 編集長:山本英二)