庄野真代さん

 女性アーティストが活躍し始めた1970年代、時代を代表するシンガーソングライターとして不動の人気を集めた庄野真代さん。都会的でハイセンス!そんなイメージを持つ方が多いのでは。歌手活動もさることながら、平和市民コンサートの提唱やNPO法人「国境なき楽団」を設立し、訪問コンサートや途上国を中心に楽器支援活動などに取り組んでいる。日々国内外を奔走している彼女にお話を伺った。
「わたし○○を始めました!」と、
まずは半歩踏み出しましょう。
Profile 庄野真代 (しょうのまよ) 
1954年12月23日生まれ 大阪市出身
1976年シンガーソングライターとしてデビューし、78年には「飛んでイスタンブール」「モンテカルロで乾杯」のヒットでNHK紅白歌合戦の出場を果たす。1980年歌手活動を休業し、世界一周の旅へ。帰国後、2000年に法政大学、2004年に早稲田大学大学院へ進学。アジア各国でボランティア活動を行い、2006年にはNPO法人「国境なき楽団」を設立し、世界に向けたチャリティ活動に力を注いでいる。
――「アルバムを作ってみませんか?」という魔法の言葉
 『6歳の6月6日にお稽古事を始めると大成する』という習わしを機に、叔父から与えられたオルガン。それが音楽との出合いだった。音楽に親しんで育った彼女は、高校入学と同時にフォークグループで本格的に音楽活動を始めた。
 「『翼をください』で初めてリードボーカルを担当、音楽中心の高校生活でした。ところが大学受験を前にメンバーがどんどん減り、最終的に私一人。最後はソロ活動になっていました。浪人中にヤマハボーカルオーディションに合格したものの、譜面歌手としての役割ばかり。中島みゆきさんの様なシンガーソングライターがどんどんデビューしていく中、私にそんな話はなかったですね。転機になったのは、二十歳目前、音楽をやめ別の道に進む決心をし、最後のつもりで参加した『フォーク音楽祭』。そこであるレコード会社の人の目の止まり『アルバムを作ってみませんか?』と、魅力的な誘いを受けたのです。もともと自分が音楽に携わった証に最後に何かを残そうとしてた時期。今までの自分の集大成を作ろうと、即OK。もし誘い方が『デビューしませんか?』という言葉だったら、今の私はありませんでしたね」
――地球の素顔を見て回った世界一周の旅
 デビュー2年目、「飛んでイスタンブール」「モンテカルロで乾杯」などヒット曲が続き、都会派のニューミュージック歌手としての地位を確立していたにもかかわらず、1980年に突然歌手活動を休業、2年間にも及ぶ世界一周の旅に出た。「戻ってきた時に元のポジションに戻れないかもしれない、という覚悟はありました。結局2年かけて世界132の都市を見て回りましたが、旅行というよりバックパッカーですから、地元の人と野宿やヒッチハイクをしたり…。1日千円以下の宿にして、余ったお金で文化的な事に触れたり、もう少し足を延ばしたりしました。行く先々で肌で感じたのは、経済活動によって破壊されていく環境、幸せや豊かさの基準の多様さ。人間が文化を作ってきたことは偉大な事だけれども、動物は誰から教わった訳でもないのに、自然のルールを守って生きている。経済活動を行ってきた代りに失った物も沢山あるんだ、自然に生かされていることを忘れてはいけない…、そんな思いが生まれた旅でした」
――45歳にして花の女子大生
 「帰国後、世界の旅で見聞きした体験を伝えるのが使命だと感じ、環境イベント等で活動しました。『体験だけでなく確かな知識と情報があれば、もっと説得力ある話ができるのに』という気持ちが芽生えていました。その頃、たて続けに事故と病気で入院をし、人間っていつ何があるかわからないなぁと痛感。『人生やり残しリスト』を作り、子供の頃からの夢を思いつくまま綴りました。その中にキャンパスライフと留学というのがあり『退院したら大学へ行こう!』と決心したのです。その矢先、法政大学が人間環境学部を新設し、社会人入試も実施するという新聞記事が目に飛び込んできました。これは運命なんだ! と願書を取り寄せたのです」 その春、法政大学に合格。環境や途上国の問題、ボランティア論、国際協力について学び、奨学生として一年間ロンドンの大学にも留学。滞在中には、世界的なNGOであるOXFAMでボランティア活動を行い、その仲間達の協力もありチャリティーコンサートも開催している。卒業後も早稲田大学大学院アジア太平洋研究科に進学するなど、歌手活動を続ける傍ら次々と自らの可能性を追求し続けている。
――NPO法人「国境なき楽団」の立ち上げ
 「『音楽を通しての社会支援や貢献ができるはずだ』という思いから、自ら立ち上げたのが『NPO法人国境なき楽団』です。施設などへの訪問コンサート、家庭で不要になった楽器を集めて途上国の子供たちに送る活動、また平和への思いを歌に託した『セプテンバーコンサート』も毎年9月に全国で行ってます。『自由・平等・入場無料』の自主運営型コンサートで、若者からシニアの方々まで、多くの人たちの協力を得て楽しく活動しています。人間、色んな人との関わりこそが財産。その財産を増やしていく事が人生だと思うんです。
 とにかく私は何でもやってみる派。先ずは『私〇〇始めました』と周りに宣言。半歩踏み出してみて、駄目だったらその足を引っ込めればいいんです。皆さんも今の自分に問いかけて、勇気を出して挑戦してほしいと思います」
 オーガニックソムリエの資格も取得し、心と体に優しい音楽と食を提供するカフェ「Com.cafe音倉」をオープン。探究心・向上心・行動力の源は「音楽を通して幸せを分かち合いたい」という思い。そんな強い心が伝わってくるインタビューでした。

2018年12月
(聞き手:高橋牧子 編集長:山本英二)