チェリッシュ

70年代の結婚式の定番ソング「てんとう虫のサンバ」で一世を風靡した夫婦デュオ「チェリッシュ」。のびやかな女性(悦ちゃん)の歌声に、高音で優しくハモる男性(松崎君)のハーモニーが美しく調和。誰でも親しめる歌声が広く大衆の心に響き、フォーク・ポップの世界を築いてきた。
77年に結婚、40年以上も公私共にパートナーとして歩んできている芸能界屈指のおしどり夫婦のお二人にお話を伺った。
ステージから、沢山の元気を
皆様にお届けします!
Profil
松崎好孝(まつざきまさたか) 愛知県名古屋市出身
松崎悦子(まつざきえつこ 旧姓:松井) 愛知県春日井市出身
1971年5人組のフォークグループとして「なのにあなたは京都に行くの」でデビュー。翌年から松井・松崎のデュオとなる。1973年に代表作、「てんとう虫のサンバ」がミリオンセラーを記録、同年に出したアルバム「チェリッシュ・スーパーデラックス」の売り上げは、ビクター史上最高記録となる。1977年に結婚。後、アメリカでの活躍・全国ツアー・テレビ出演などを順調に展開。ベテランデユオとして年間130本以上のステージをこなす。
――二人を繋いだ音楽番組 「ヤング720」
隣人である親戚のお兄さんの家に、当時としては珍しくステレオがあり、幼い頃から音楽に親しんでいく環境にあった松崎少年。中学・高
校・大学と音楽に携わっていく中、ビートルズの音楽との出会いがプロとしての意識を目覚めさせた。一方、悦ちゃんは学生時代からコーラス部に所属する歌の大好きな少女だった。
「僕はTBSの学生向け情報番組『ヤング720』で、アマチュアバンドとして4人のメンバーで出演していました。番組内でクラリオンガールの悦ちゃんとは、同じ名古屋出身という事もあり親しくなりました。当時、グループ同士での音楽合宿に彼女を誘い、そこで初めて彼女の歌声を聴いたのです。『面白い声質のこの子をグループに入れたら、どんな音楽を作れるだろう』と掻き立てられる思いでした。まだ学生だった1970年から、彼女を加えた5人のメンバーでヤマハ店内でのギターのデモンストレーション演奏のアルバイトをしました。自然の流れの中で一緒に音楽活動が深まっていった感じでしたね」
――運命の曲 「てんとう虫のサンバ」
「全国からの代表者が集まる『フォーク音楽祭』が日比谷野外音楽堂で開催されたのですが、優勝してないにも係らず『ビクターのスタジオが
新しくなったから見に来ない?』と、ディレクターさんに声を掛けて頂いたのです。興味半分で出向いたその数か月後にはデビューが決まり、と
んとん拍子のレコーディングでした。松崎君に出会うまでは、将来自分が音楽の道に歩むなんて思いもしなかったし、名古屋にはファンの方も多く、上京してプロデビューするのはためらいと不安がありました」
「僕らはフォーク・ロックをやっていましたので、たまたまお遊びで作った流行歌調の『なのにあなたは京都に行くの』がデビュー曲として選ばれた時は、葛藤がありました。当時、小柳ルミ子さんや天地真理さんといったアイドルが売れる時代で、ディレクターは悦ちゃんをソロデビューさせたかったようでした。メンバーは次々に脱退し、結局二人のデュオになったのです。皆に愛されて頂いている『てんとう虫のサンバ』も、LP版中の一曲で全く音楽性が違う訳です。この曲がシングルカットされると聞いた時は、本当に戸惑いました。新たにレコーディングする事もジャ
ケット撮影もないまま、慌しく発売されたこの曲がミリオンセラーになり、今では私達の代表曲です。これほど長く歌ってこられたのはこの曲
のおかげですから、人生何があるかわからないですね」
――アメリカ大陸49州レンタカー走破の旅
1977年、二人は「てんとう虫のサンバ」の文字通り、教会で結婚式を挙げた。いつかは結婚…という意識があった二人の背中を押してくれたのは、今は亡き芸能レポーター、梨本勝さんの先走ったスクープだったとか。友達の延長のような夫婦関係「ニューファミリー」は、時代の象徴となり、誰もが羨んだ。
88年の夏からは、毎夏13年間かけて、アメリカ大陸を車で横断する旅を家族4人で体験している。
「地図だけが頼りで行き当たりばったり…、無謀な僕の思いつきの旅でした。毎年拠点を決めて、そこをベースにレンタカーで走って周るのです。現地が気に入れば長く滞在しますし、そのまま素通りもあります。ワシントン州シアトルから始まったアイダホ〜モンタナ〜オレゴン…、このコースが一番楽しかったですね。13年かけアメリカ大陸49 州を走破しました」
「子供達はインターナショナルスクールに通っていたので、夏休みは3ヶ月以上。私も毎年この旅に出かける事が励みになり、仕事にもメリハリが出来ました。子供達は、教科書に出ているこの場所に行ってみたい!先生の家を訪ねてみよう…と、はしゃいでいましたね。州の境には必ず『ウエルカム○○州』と書いてあり、その度に拍手して皆で喜びました。でも何よりも嬉しかったのは、子供達と長い時間一緒にいれる大切な時間を持てたことです」
――仕事も生活もパートナーという考え方
「夫婦円満の秘訣なんてありません。出会ってからもう50年以上にもなるのですから、肩の凝らないお互いの距離感を大事にしています。後は、自然に逆らわない事ですね。自分のペースで上手く心と体と付き合っていかないと…。この歳ですから『無病息災』はあり得ません。持病があっても当たり前! くらいの気持ちでポジティブに。自然体が一番です」と松崎さん。
「夫婦はお互いの我慢。全部が上手くいくなんてあり得ません。100のうち60嫌な事があっても、40素敵な事があればそれでいい。ほどほどの所で、夫婦の中での自分の居場所を作るのが上手くいくコツかな、と思います。今ようやくその居場所が見つかったという感じです」と悦ちゃん。
「現在、『夢コンサート』で全国各地に出向いています。ヒット曲を通して、皆さん其々の思い出や夢を共有する場が『夢コンサート』です。歌謡ファンの皆さんに、沢山の元気をお届けします」とお二人。
 インタビュー中、「松崎君」「悦ちゃん」と呼び合うお二人。出会ってからずっと変わらないとか。お互いに、出会った時の初心を持ち続けていて、これがお二人が仲睦まじい理由とお見受けしました。

2019年4月
(聞き手:高橋牧子 編集長:山本英二)