「ラーブレターフローム カナダ~♪」、軽快なイントロと特徴的な歌い出だしで始まるこの歌は、熟年世代ならずとも誰もが口ずさめるデュエット曲だ。元祖「エロ可愛い」を地でいく畑中葉子さんが、1970年代の大ヒット曲「カナダからの手紙」の時代から話題を集めたにっかつ女優時代を経て、完全復活をした現況を等身大で語ってくれた。
自分を大切にして生きてほしい
新曲『夜雲影』に込めた思いです
平尾昌晃先生は、引っ越し先の隣人!
建設業を営む父親の下、三姉妹の次女として八丈島の大自然の中、元気で活発な女の子として育った。物心つくかつかない保育園の頃から、「大きくなったらテレビに出る人になる」と言っていたほど、人前で何かを披露する事が大好きだった。
「小学6年の頃、『歌手になりたい』とう内容の手紙を作曲家の先生宛に出した事があります。当時から歌手になる夢は抱いてましたが、あの頃は芸能界って雲の上の存在だと感じていましたね。中学2年の頃、父の仕事の関係で東京のマンションに家族で引っ越すのですが、ふたつ隣の住人が偶然、平尾昌晃先生だったのです。先生はベランダでよくゴルフの練習をされていて、その音が聞こえる度、ベランダから元気に挨拶をしてアピールしたものです。原宿に遊びに行った中学3年の時に、3社の芸能事務所からのスカウトを受け、両親と相談の結果、ご近所のよしみで平尾先生に相談させて頂く事に…。そこからのご縁で、高校入学と同時に麻布十番にある『平尾昌晃歌謡教室』のオーディションを受け、大勢の中の一人としてお世話になる訳です」
恩師・平尾昌晃氏と歌った『カナダからの手紙』
作曲家として名高い平尾昌晃が、歌手生活20周年の節目に発表したのが『カナダからの手紙』だ。実はこのデュエット曲の相手を選ぶオーディションの審査員の中に、彼は入っていなかったのだ。「歌謡教室のデュエット候補生の中から私が選ばれ、平尾先生とデビューできるなんて、まるでレールに引かれているようだ。『これはもう運命』だと思いました。先生は作曲家として巨匠であるにもかかわらず、誰に対しても分け隔てなく同じに接する方で、学ばせて頂く事ばかりでした。ご一緒する中、先生に叱られた記憶は一度もありません。しいて言えば、デビュー前にたった一度だけ。レッスン中、ワンコーラスだけ歌ってエンディングで退こうとした私に、『曲がまだ終わってない!最後までが楽曲だ!』と。最高に印象に残っています。『カナダからの手紙』という色褪せる事のない曲と共に、亡・平尾先生の存在の大きさは、今もかわりません」
運命を変えた転身
「『カナダからの手紙』の後、事務所は別の男性とのデュエットで私を売り出そうとしました。元々アイドルに憧れソロ歌手希望の私に、社長から『カナダからの手紙が欲しかっただけで畑中葉子が欲しかった訳じゃあない』と告げられ、19歳の私の心はペチャンコになってしまいました。事務所に内緒で、恋愛や結婚に逃げてしまったのです。
ソロ活動後の転機は、週刊ポストから受けた水着の写真の仕事です。その写真が世のおじさま方に受け、プレイボーイからセミヌードの依頼が…。もう一度仕事をしたいという思いと、結婚や離婚で事務所に迷惑を掛けた責任をとらなければ…と、役目を果たすつもりで引き受けたのです。『後から前から』という曲の制作中に、にっかつ映画の主演の話が持ち上がり、一晩中考え抜いて勇気をもった決断をしたのです。ソロ活動、結婚、離婚、にっかつロマンポルノで女優デビューと、人生が目まぐるしく変わった時期ですが、その時代があったからこそ、今の自分があると思っています」
若者へのメッセージソング
『夜雲影(やうんえい)』
「元々アイドルに憧れていた私は、63歳の時に『夢をあきらめなければ、何歳からでも思いは遂げられるんだよ』とアイドルを目指す明るいメッセージを込めた曲を用意していました。そんな中、コロナ禍により世の中が急変。皆さんの生活も一変しましたよね。親のリストラや学校に行けない、就職できないなど、生活がままならなくなり夢を阻まれた若者が自死していくニュースが多くありました。若年層の自死が多い中、『途中で夢をあきらめないで』と、死に向かう人の足を踏み止めるには私に何が出来るのだろう…、そんな思いを楽曲に込めたのが『夜雲影(やうんえい)』なんです。『自分を大切にして生きてほしい』という願いを届けたいですね」
とかくセクシーさに目が行きがちな彼女だが、歌唱力が際立つのびやかな歌声だ。心地よく語りかけるような優しさに湧ふれた曲は、若者だけでなく、熟年世代の皆様の心にも響くに違いない。
楽しい事は自分で生み出せるはず
「今の熟年世代の皆様は、生き方が上手で楽しみ方も知っていますよね。健康を保つには、自分の楽しい場所にどれだけ身を置けるかだと思います。家族の病気や死など、辛い事、悲しい事は拭い切れなくイヤでも身に降りかかってきます。でも、楽しい事って自分で作れるんですよね。『楽しい事を沢山作っていく』、それを心掛けると、人生イキイキしてくるはずです」
自身の子育ての体験談や、現在の遅れている日本の性教育の実情を真摯に受け止めた、筋の通った熱い言葉が印象的だった。当時のセクシーささながら、新たな魅力を増した彼女は、世の男性だけではなく同年代の女性をも魅了するだろう。今後の新しい挑戦に目が離せない。
聞き手 高橋牧子
編集長 山本英二
Profile 畑中 葉子(はたなか ようこ)1959年4月21日生まれ 東京都八丈島出身
1978年『カナダからの手紙』(恩師・平尾昌晃氏とのデュエット)で、ビクターよりデビュー。同年のNKH紅白歌合戦に出場をはたし、レコード大賞、日本歌謡大賞、新人賞など各賞受賞。翌年ソロ歌手に転向、’80年にはにっかつ映画で女優デビューし、主演映画と共に話題曲『後から前から』が大ヒットとなる。結婚・育児を経て2010年に活動再開。デビュー40周年には、亡・平尾昌晃氏のトリビュートアルバムをリリース。’22年、新曲『夜雲影(やうんえい)』を発表し、歌を中心に舞台や映画など幅広い分野で精力的に活動中。