スペシャルインタビュー 石井明美さん

バブル真っ盛りを象徴するような80年代のディスコ系のナンバーを華やかに歌いあげ、一世を風靡した石井明美さん。ドラマ『男女7人夏物語』のテーマソングとして話題を集めた「CHA-CHA-CHA」にまつわる秘話や、現在、ライフスタイルの一部ともなっている「夢コンサート」での奮闘ぶりを自然体で語ってくれた。

『大切なお店』『好きなアーティストのコンサート』には
積極的に足を運んで! それが日本を元気にするはず

美容室休職中の繋ぎのバイトが転機

幼い頃から活発で好奇心旺盛、パンツルックを好むボーイッシュな女の子だった石井明美さん。小学4年から中学時代に、ひたむきに打ち込んだのが水泳。当時は「部活(水泳)の事しか考えていなかった」と言うほど、その実力はずば抜けていて、県大会優勝、全国大会にも出場した実績がある。だが、思春期に自分の記録に限界を感じてしまい中学で水泳は止めてしまった。
「高校時代には憧れの職業の美容師を目指しました。在学中に通信教育で美容師の資格を取り、卒業と同時にインターンとして都内の大手美容室で働き始めたのです。でも、大手ならではの環境には馴染めずに退職し、こぢんまりとして少人数で働ける美容室を探していました。再就職迄の繋ぎのバイトとして友達に紹介されたのが、六本木のカラオケスナックです。バブル全盛期でしたが気取ったお店ではなく、時給も高くはなかったですね。接客が苦手だった私は、お客様の隣に座っているより歌を歌っている方が楽で、いつも歌に逃げていました。六本木という場所柄、常連客には芸能関係の方がとても多く、たまたま私の歌声が目に止まった事でこの先の人生が左右されました」

1曲出して売れなかったら辞めていい!

「テレビ局やプロダクションの方から、何度もスカウトされましたが、『美容室で働く夢』を持っていましたし、芸能界は怖いというイメージがあり、全くなびかなかったですね。ただ、私を『磨けば光る原石』と期待をかけていただき、1年間お店に通い続けた事務所の方の人柄にふれるうちに、『この事務所だったら怖くない』と思い始めました。元々芸能界で生活していくつもりはないので、『試しに1曲』という言葉に心が動き『1曲歌って売れなかったら辞めてもいい』という約束でスタートをしたのです。
事務所に所属して2か月後には、デビュー曲のレコーディンが決まっているという速さでしたが、1曲だけという約束だったのでそれほど負担は感じなかったですね。『どんなふうに歌ったらよい?』の問いかけに『レベッカのノッコちゃんみたいに歌って』と。なので、ビブラートは『フレンズ』を意識して歌いました。とにかく1曲だけのつもりなので、ジャケット写真はあえて横向きで誰にも気付かれないようにし、レコーディングはしたものの家族や友達には内緒にしていました」

『CHA-CHA-CHA』で鮮烈デビュー

芸人『明石家さんま』が主役のドラマ『男女7人夏物語』で、毎回ラストの盛り上がりのシーンに、軽快なリズムとクラクションの響きと共に流れてくる『CHA-CHA-CHA』。バブル期の華やかさとエネルギッシュさを感じさせるインパクトあるこの曲は、中森明菜の『DESIRE』を抜いて、1986年のオリコン年間ヒットチャートの1位となった。
「曲が売れ始めて間もなく、事後報告で事務所の会長と両親に報告に行ったのですが、家には山のように色紙が積んであって(笑)、親戚や同級生がいきなり増えた感じでしたね。今では考えられないですが、楽屋に知らない人から電話がかかってくるなどはしょっ中。でも、私自身の生活は何も変わらなかったですね。曲のイメージとは違い元々地味なので…(笑)。歌番組でテレビの中だけでしか観ていなかった人を目の当たりにすると、見惚れていたものです。自分が売れていると意識したのは大分後で、事務所サイドが『2曲目が大変だ!』とざわつき始めてからですね」

ベストテン番組を生で観るような『夢コンサート』

結婚・引退・休養を経て再活動を開始し、現在のライフスタイルの中心は、全国各地で開催されている『夢コンサート』だ。昭和歌謡でお馴染みの豪華な顔ぶれが勢揃いするとあって、ヒット曲が流れると観客席とステージとが一体化、青春時代が甦ってくるような熱気あふれる時間が過ごせる。
「私は女性陣の中で一番の若手なのですが、出演者の皆さん、当時と変わらないパフォーマンスで歌ったり踊ったり、本当にエネルギッシュです。私も盛り上げ役として、あの頃の『石井明美を聴きたい』というお客様にお応えできるよう、声・歌い方も当時を意識し、曲のイメージを変えずにインテンポでレコード通り歌っています。『そう!アレアレ』って、一瞬で80年代に戻って喜んでもらえれば嬉しいですね。ステージではヒット曲の他に、出演者同士のコラボなど、新しい試みも楽しんで頂けると思います。」

熟年ばんざい読者の皆様へ

「最近ジムに通い始め、また泳いでいます。中学時代に毎日泳いでいた時代から、40年近くのもの凄い時間を経ての挑戦です。最初は『ブランクって恐ろしい!』と感じましたが、徐々に距離も伸びタイムも縮まって、今では体力維持とストレス解消になっています。あの当時に泳いでいた時とは違う楽しみ方を再確認できました。皆さんも昔培ってきたものに改めて再挑戦する事で、それまでとは違う新しい感じ方や発見があるかもしれませんね」

「アイドルに笑顔はつきもの」の時代、洗練されたクールなイメージで私達を魅了した彼女。インタビュー中に、時折、心が和むようなとびっきりの笑顔をみせてくれた。「昔の華やかなイメージを大切にしつつ、新しい自分も表現していきたい」と語る言葉から、前向きな姿勢が伝わってきた。

聞き手 高橋牧子
編集長 山本英二

Profile 石井 明美(いしい あけみ)1965年8月生まれ 千葉県館山市出身
1986年TVドラマの主題歌『CHA-CHA-CHA』で歌手デビューし、オリコン年間シングルチャート1位を獲得。翌年春の選抜高校野球大会の入場行進曲に採用されるなど一世を風靡。結婚を機に引退をするも、1997年より活動再開し、数々のヒットドラマの主題歌、エンディング曲、CMソングをドラマティックに歌う。現在は、夢グループが主催する全国各地でのコンサートを中心に、ラジオや歌謡番組に出演し精力的に活動中。