スペシャルインタビュー 渡辺 真知子さん

女性のシンガーソングライターがまだまだ少なかった1970年代後半、圧巻の歌唱力にインパクトある歌詞とメロディーが相まって、ヒット曲を連発した渡辺真知子さん。人気アーティストとして、時代を超えて歌い続けるパワフルな彼女の言葉に耳を傾けたい。

何歳になっても、夢中になれる何かを持ち続ける
それは大切で幸せなこと

ポプコンがきっかけで
導かれた歌への道

小さな頃からとても活発で逞しい女の子だった。田端義夫さんが大好きな父とベンチャーズをいつも口ずさむ兄がいる中、自然と音楽に親しむ環境で育った。まだ幼かった彼女が父親から手渡された一冊の本が「ロビンソン漂流記」。無人島に流れ着いた船乗りが、一人で自給自足。苦悩や挫折と戦い成長していく姿を描いた冒険物語だ。「父親が、私の将来を見据えて与えてくれたプレゼントだったのではないか…(笑)」と昔を振り返って語った。
「高校時代、有り余るエネルギーをぶつけた先が『歌』でした。友達と二人でフォークソングを歌い、見様見真似で作曲もしていましたね。ヤマハのポプコンで特別賞をいただいたのがきっかけで、歌手への道が自然に切り開かれていった感じです。ポプコンで同期の中島みゆきさんと2回同じステージに立っていますが、彼女がグランプリの時にギターを抱えて歌っていた『時代』は、今でも鮮明に覚えていますね」

ヒットする曲作りを教わった「迷い道」

シンガーソングライターはテレビに出演して歌わないという音楽業界の常識を覆したのが彼女だ。歌番組が全盛期の中、積極的にTV出演をし、アイドルとは一味違ったパワフルな歌いっぷりで他を圧倒した。デビューから瞬く間に、芸能界での目まぐるしい日々が始まった。
「デビュー曲の『迷い道』は、OKが出るまでに何度も曲を書き直し、自宅から市ヶ谷にあるソニーまで幾度も往復しました。人の心に引っ掛かる歌詞とはどういうものか、人の耳に残る曲とはどういうものか…。サビの持っていき方からテンションの上げ方まで、ヒットする曲の作り方を教わった気がします。まだ20歳そこそこだった私は、心に秘めておきたい部分のベールを1枚1枚めくられていく様でヒリヒリした思いでしたが、プロの指導を受けることが出来たのは幸運でしたね。完成にこぎつけたこの曲のおかげで、『心を動かす曲ってこうして生まれるのだ』と身を持って知ったのだと思います」

色褪せない名曲
「かもめが翔んだ日」

2曲目にして彼女はアニメ主題歌やCMソングを手掛けるプロの作詞家、伊藤アキラ氏から詞を提供され、あの名曲が生まれた。
「プロの先生から詞を頂けるなんて、あまりの嬉しさで興奮しました。歌詞を観た瞬間、言葉のリズムに乗せられ、メロディーが頭の中を駆け巡り、曲が溢れ出しその場で楽譜にしたのです。情景が思い浮かぶ『♪ハーバーライトが朝日に変わる…』の出だしは、幕開きをつけるアイディアがディレクターから出て、先生がこの2行を付け加えてくださいました。そこにパッと曲がはまり一瞬にして出来上がったのです。エネルギーが一つに集まり、モノ(楽曲)が誕生する瞬間を体感しました」
先生とは30年以上の時を経て、面白いエピソードがあります。50歳を過ぎてから、この曲をアレンジしてキーを下げて、落ち着いたワルツの曲調で披露しました。これを聴いた先生から喜びの電話があり『やっと僕が描いたイメージ通りの歌に仕上がったね。これは失恋の歌なのに、何故あんなに元気良く歌うのかわからなかったよ』と。デビューから今まで私が歌っていた『かもめ』は何だったのだろう(笑)。時を経てなお進化しているこの曲を、これからも大切に歌っていきたいですね」

歌はライフスタイル
「音を楽しむエキスパート」になりたい

「私の身体は歌う事を欲していて、コンサート会場で生きた歌を皆様に届け、逆に会場の皆様からエネルギーを頂いています。このコラボレーションが健康の源なのです。昨年、デビュー45周年を迎え、国際フォーラムでの記念コンサートを収録したライブ盤を発表しました。この歳でのライブ盤は、臆病になる事もありますが、『今しかない』と思い、コロナ禍があけようとする瞬間にできる最大の事をやりました。ライブを成功させるには体力作りは欠かせませんので、コンディションを整える為にウォーキングを続けています。毎日8千歩から1万歩は歩いています。大好きだったお酒も今は嗜む程度に減りましたが、全然苦ではありませんよ。『夢中になれるもの』があるって幸せな事で、大切な物の為には頑張れるものです。いくつになっても、何かに夢中になれる幸運を逃さずに、興味や好奇心ある事には積極的に! どこにどんな素敵な事が待っているかはわかりません。止まっている時間を少しさいて、まずは動いてみる事から始めてみて下さい」

中島みゆきさんが手掛けているオリジナル音楽舞台「夜会VOL・20リトルトーキョー」に出演した彼女。舞台のテーマソングでもある壮大な曲「二雙の船」(作詞・作曲/中島みゆき)を歌い、「曲にときめき、まるで恋をしているよう」、と熱い思いを語っていた。「歌がライフスタイル」になるに違いないと思わせるパワフルな言葉の数々で、今後の彼女の展開に期待が膨らむ。

聞き手 高橋牧子
編集長 山本英二

Profile
渡辺 真知子(わたなべ まちこ)1956年10月23日生まれ 神奈川県横須賀市出身
短大声楽科を卒業後の1977年、シンガーソングライターとして「迷い道」でデビュー。翌年「かもめが翔んだ日」が爆発的にヒットし、同年のレコード大賞最優秀新人賞受賞とNHK紅白歌合戦の初出場を果たす。抜群の歌唱力で日本のポップシーンに残るヒット曲を連発、人気アーティストとして国内外の音楽祭で歌声を披露する機会も多い。現在コンサートを中心にオリジナル曲からジャズ・ラテン・クラッシックなど、様々なジャンルを斬新に展開し幅広く活動中。