スペシャルインタビュー 平田 満 さん

観る人の心を打つ存在感ある演技で、数多くの名シーンを残してきた平田満さん。最新出演映画『安楽死特区』は、世の中でタブー視されている『安楽死』という重いテーマで、人間の尊厳や死生観を問う社会派ドラマだ。この衝撃作の中で、重要な役どころに挑んでいる彼の話に耳を傾けたい。

たとえどんなに狭い場所であろうと、居場所があって生きているだけで素晴らしいこと!

大学入学時に演劇サークル加入で演劇の世界へ

大学に入学してすぐの新入生歓迎公演で、たまたま目についたのが演劇サークルの公演だった。特に演じる事に興味を持っていた訳ではなく、自然の流れの中で加入した演劇の世界だったが、後の彼の人生を大きく変える事になる。
「当時、つか(こうへい)さんは、既に『つかこうへい事務所』をお一人で立ち上げており、我々の大学演劇サークルとの合同公演を行う機会がありました。つかさんが演出する作品に僕が出させていただいたのが、劇作家『つかこうへい』との出会いです。もともと、演技を突き詰めようという志で始めた訳ではない世界でしたが、彼のプロデュース公演に参加させていただく中で、『自分の居場所ができた、こんな自分でも受け入れてくれる場所があるんだ…』、そんな感覚になっていったと思います」

平田満出世映画
名作『蒲田行進曲』

映画化(深作欣二監督)で、主役級の村岡安次役に抜擢された。
「『蒲田行進曲』は、元々つかさんの舞台作品で、僕は違う役柄で劇場の舞台に出ていました。映画化するにあたり、あのヤス役での出演が決まったのです。舞台で支持されるのとは違い、映画は全国的に上映されるので、映画出演後は自分の知らない所での影響力があったと思います。劇場以外の仕事の声がかかるようになり、役者として知って下さる方の範囲が広がりました。人生が変わったと言える作品ですね」
この映画で彼の演技力が高く評価され、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を始め、多くの賞を受賞した。その後も舞台や映画に留まらず、大河ドラマや朝の連続テレビ小説でもお馴染みとなった。直近の朝ドラ『虎に翼』での初代最高裁判所長官のワンシーンでは異彩を放っており、私たちの記憶に新しいのではないだろうか。

最新出演の衝撃映画
『安楽死特区』

映画『安楽死特区』の原作は、在宅医として2500人以上の看取りを経験してきた医師であり作家の同名小説だ。尊厳死をテーマにした映画『痛くない死に方』で、死生観と社会問題に真摯に向き合ってきた高橋伴明監督が、この作品で安楽死をリアルに描き出している。観る者一人ひとりに生と死の根源を見つめさせ、重いテーマを投げかけるこの映画の中で、平田満さんは末期がんに苦しみ安楽死を希望する難しい役を演じ、印象深い重要なシーンを担っている。
「ストーリーも状況設定もありますが、感じ方は人それぞれで、『こうでなければいけない』という観方がないのが、この映画の素敵なところです。最期の時を迎える患者とその選択を支える医師、そして愛する家族や恋人、それぞれの視点が織りなす群像劇なので、それぞれのキャラクターに感情移入すると思います。主人公だけでなく、出てくる人それぞれにシチュエーションがあり、観る方の年齢や性別、キャリアなどで観方が変わってくるのではないでしょうか。生と死は誰しもが訪れ、みな違っていて当然です。観終わった後に色んな事を感じていただき、皆さんで大いにディスカッションをしてもらいたい作品です。
映画のエンドロールの後に、『安楽死』を望んでいる実在の女性が登場し、国外でそれを試みる事に関して、淡々とインタビューに応えている様子が流れます。最後のその数分間も、まるで一つの映画作品のようで、女性の実際の受け応えはインパクトがあります。議論になりうる観どころとなるでしょう」

居場所があって生かされているのは幸せなこと

「これから先、あれもこれもと欲張ったあくせくした時代は来ないだろうと思います。少しずつ活動量が減って、できる事が少なくなっているかもしれません。高齢で登山登頂に成功したりシニアランナーとして記録を出したりと、アクティブさが脚光を浴びがちですが、世の中そんな人達ばかりではありません。今後の自分はどうなっているのかわかりませんが、今よりもっと深い事を考えられる様になって、見方や感じ方が変わる事で、素敵に豊かになっているかもしれません。自分自身の内的な変化には興味がありますし、挑戦しがいがあります。今後はそこに挑戦したいと思っています。
70代、80代の方で、今元気で頑張っている方は、それだけで尊敬に値します。どんな人にも居場所がありますし、その場所で生かされているだけで十分幸せな事ではないでしょうか」
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穏やかな口調と物腰の柔らかさが印象的で、謙虚な言葉の数々からお人柄が伝わってきました。「俳優としては、今後はセリフを減らしてもらい少しずつ役を軽くしてほしい…」、と笑いが起きるような発言で、お茶目な一面も覗かせた平田満さん。これからも舞台や映画の中で、彼にしかできない心に残る名シーンを刻んでいく事でしょう。

(聞き手 高橋牧子  撮影 岡田充)

Profile 平田 満(ひらた みつる)1953年11月2日生まれ 愛知県豊橋市出身
大学在学中に、学生劇団で人気を得ていた「劇団暫」に入団し、「つかこうへい」と出会う。1974年、劇団「つかこうへい事務所」の旗揚げに参加し、同氏の初期作から数多くの作品に出演。1982年、深作欣二監督による映画『蒲田行進曲』で、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、報知映画賞最優秀主演男優賞など数多くの賞を受賞。演技力を高く評価され、読売演劇大賞最優秀男優賞や紀伊國屋演劇賞個人賞などを次々に受賞し、長きにわたり舞台や映画で活躍している。