
一世を風靡したミュージカル劇団『東京キッドブラザース』で、柴田恭兵さん・純アリスさんと共に三枚看板として人気を集めた三浦浩一さん。NHKドラマ『風神の門』での主演以来、テレビ・舞台・映画でも安定した存在感を発揮する実力派俳優だ。多彩な作品で様々な顔を覗かせる彼に、この秋公開される最新出演映画『ぴっぱらん!!』の話題を交え、お話しを伺った。
人間ってほっといたら怠けたくなる生き物
だからこそ、夢中になり心ときめくものが必要
スクリーンの世界に憧れた少年時代
岐阜の田舎町で多感な中学時代を過ごした三浦浩一さん。彼が育った街には『名画座』があり、ちょくちょく映画館に通う日々だった。『ウエスト・サイド物語』『草原の輝き』『風と共に去りぬ』など、数多くの名作に出会い、スクリーンの世界に引き込まれていった。ジェームス・ディーンに憧れ、中学を卒業する頃にはすでに映画俳優になる決心をしていたと言う。
「中学を卒業したら直ぐにでも上京し、俳優養成所を受けるつもりでいました。ところが父親が『高校くらいは出ておけ』と猛反対、やむなく地元の高校に進学したのです。そこで出会ったのが、全日本剣道選手権大会で2位となった剣道部顧問の先生です。当然演劇部に入るつもりでいたものの、『身近にこんな素晴らしい先生がいるのなら…』と考え、剣道部に入部したのです。今思えば、この時の剣道部での教えにより、心身共に鍛えられたおかげで、厳しい世界である『俳優』という道を貫けたのでしょう」
『東京キッドブラザース』入団へ
日大芸術学部映画学科に進学した彼は、在学中2年に母親を癌で亡くしている。俳優になるという母への誓いが、改めて今後を見つめ直すきっかけとなった。
「このまま学生という身分に甘える事は残りの2年が無駄になり、俳優になる目標の遠回りになるのでは…、と考え大学を中退しました。
アルバイト生活をしながら、暗中模索の中、偶然目にしたのが『東京キッドブラザースオーディション』の記事でした。彼らの舞台を観たことは無かったものの、ニューヨークのオフ・オフ・ブロードウェイで東京キッドのミュージカル『ゴールデン・バット』が大ヒットしたニュースがニューヨークタイムズに掲載されたのを知っていました。これがオーディションを受ける事に繋がり、現在の俳優の道が開けたのです。入団後、先輩の柴田恭兵さんが、テレビにどんどん出るようになり、若いファンも増え勢いが物凄かったですね。爆発的な人気で、テレビ関係者の方も芝居を観に来られるようになりました。東京キッドの演出家、東由多加氏が僕に沢山の役を与えてくれたおかげで、25歳の時、NHK時代劇『風神の門』(司馬遼太郎原作)の主役の抜擢に結び付きました。本格的な俳優の道は、ここがスタートになった訳です」
俳優人生を変えた舞台稽古
『冬のライオン』
「今までに時代劇から学園ドラマまで、多彩な作品で色んな役を演じましたが、衝撃を受けたのが平幹二朗さんとの共演舞台『冬のライオン』です。東京キッドで熱く自由な芝居が染みついている僕の演技に、演出家の高瀬久男さんからのダメ出しが、ことごとく僕に集中しました。台本には、セリフよりダメ出しの書き込みの方が多かったくらいです。稽古場に行くのも憂鬱になり、妻に『もう、限界だからこの役は降りようと思う』と愚痴った事もありました。でも、彼はこの舞台で、ミュージカル俳優として培ってきた枝葉を剥ぎ取り、新しい自分を引き出してくれたのです。今の自分があるのは、彼のおかげだと感謝しています。その後に高瀬さんの演出で、再び平さんと同じ舞台に立たせて頂く事ができました。あの時、徹底的に指導してくれた事に改めて恩を感じています。
僕は、演じる上で、『役の人物として観た人に印象を与える』という所を目指しています。観ている人に『三浦浩一に似ているけど…?やっぱり三浦だ!』、そう思って頂けたらシメたものですね。以前、樹木希林さんと時代劇でご一緒した時に『三浦君は骨格が変えられるからイイわよね』と言われた事があります。僕にとっては、最高の褒め言葉でとても嬉しかったですね」
任侠映画の枠を超えた
最新出演映画『ぴっぱらん!!』
この秋公開の映画『ぴっぱらん!!』は、家族・兄弟の絆、人生の厳しさや宿命を表現しており、任侠映画ファンのみならず、映画そのものの魅力に触れる事が出来る作品だ。三浦さんはこの映画で、選挙を控える政治家でありながら元ヤクザの2代目組長という脇を固める重要な役どころを演じている。
「『任侠』という言葉は、あまり聞かなくなりましたが、それだけではくくれない、『仲間・父子・兄弟』の様々な人間ドラマが詰め込まれている作品です。本作では、3兄弟の少年時代のシーンが多く描かれています。離れ離れになってしまった3兄弟が、別々の道を歩むことになってもなお固い絆で結ばれ、危機や争いごとに向かっていく…、この3兄弟がこの先どうやって大人になって道を開いていくのだろうか…と、期待が膨らみます。見応えあるアクションシーンや劇中やエンディングに流れる音楽も素晴らしく、余韻が残ります。様々な世界観がふんだんに詰め込まれた、人情味あふれる興奮をぜひ映画館で体感ください!」
すでに古希を迎えられている三浦浩一さん。TシャツGパン姿がスマートで溌剌としていました。若さと健康の秘訣は、毎朝日課のオリジナルドリンク、「牛乳+きな粉+すりゴマ+蜂蜜+玉子」だそう(笑)。渋さの中に茶目っ気を覗かせ、心が和む瞬間が幾度もありました。
聞き手 高橋牧子
編集長 山本英二
Profile 三浦 浩一(みうら こういち)1953年12月4日生まれ 鹿児島県出身
1977年、劇団「東京キッドブラザース」に所属し、柴田恭兵らと共に数々の舞台に出演。80年NHKドラマ『風神の門』の主演でメジャーデビュー。以後、映画やTVに活躍の場を広げ、『鬼平犯科帳』『元禄繚乱』『炎立つ』『スクール☆ウォーズ』『半沢直樹』など、数々の話題作に出演し人気を博す。安定した演技で幅広い役どころをこなす演技派俳優として活躍中。